◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/11/08 http://dndi.jp/

〜That's the way to go 〜『文庫のための長いあとがき』の余韻。

DND事務局の出口です。日本のベンチャー世界を一変させてしまうキーワー ドは「EXIT Strategy」と指摘し、先行きが見えない中を手探りで困難に向う「M uddle through」(泥の中を通り抜ける)状態を楽しむ、という生き方や文化に も触れて、そして、もうひとつ「Tenaciousness」という言葉は、もうとうに諦 めたかと思ったら、アイツだけやり続けていた、変な奴だなぁ、本当にアイツの テネーシャスネスには驚くよ、というような使い方をするらしく、その意は、絶 対にギブアップしない執拗さだ、との解説がありました。


さて、「EXIT Strategy」(イクジット・ストラテジィ、出口戦略の意味)、 「Muddle through」(マドル・スルー)、そして「Tenaciousness」(テネーシ ャスネス)、これらの言葉から何を連想するでしょうか?う〜む、その漠とした そのエリアに住んだ経験があったり、その本を読んだり、あるいは、大学発ベン チャーを生業にしていれば、すぐピーンと来るかもしれません。では、ヒントで す。「天気のいい田舎町」。そして、米国の代表的なクラスター名で、こんな活 動が活発です。


〜普通の人たちのチームが、「失敗しても返さなくていい」資金をベンチ ャー・キャピタルやエンジェルから投資として調達し、一銭の借金もすることな しに、急成長して上場したり大失敗したりできる。「再挑戦可能なシステム」な どとことさら強調せずとも、借金などないのだから、失敗したって何回でもトラ イするのは常態。そして成功時(株式公開、自社売却)には、創業者や一部投資 家に偏った富の分配にはならず、リスクを負ったすべての関係者に公平感を伴う ルールの下で富が応分に分配される、(そこは)そういう世界だ。



●「シリコンバレー精神」の真髄


お分かりでしょうか?答えは、「シリコンバレー」です。上記の文章は、『ウ ェブ進化論』の著者、梅田望夫氏の近著、といっても96年から01年の5年間にわ たって「月に1通」と決めて雑誌などに書いた「シリコンバレーからの手紙」を 『シリコンバレーは私をどう変えたか』(新潮社)で出版し、この度、その文庫 化に際して、『シリコンバレー精神』(ちくま文庫刊)と改題して発刊した、そ の「あとがき」からの引用です。


『〜手紙』がスタートしてから10年、その集大成を出版してから5年、そして 新たに書き下ろしの60枚を「文庫のための長いあとがき」と題して終章に収めて いました。あとがきは、あたかもネットで検索して過去の記述を引っ張り出して いるような構成は、ウェブ進化論の著者らしい。


文庫の表紙にこんな説明書がありました。〜「シリコンバレーで今何が起ろう としているのか、この目でみきわめたい。産業の大変革を身体で実感したい。19 94年10月、同地に移住した著者は、ネット革命とバブル崩壊の一部始終を目撃し、 マイクロソフト帝国の変質と、リナックス、グーグルの誕生に注視する。技術と 経営と投資家の幸福な結びつきと、その背後の「変化を面白がる楽天主義」を余 すところなく伝える名著の、待望の文庫化〜。


見事な前ふりですね。続いて、梅田さんも「文庫版まえがき」でこう述べてい ました。


「シリコンバレーのネットバブル崩壊の焼け跡でグーグルという怪物が育ち、 ネットの世界、情報の世界に革命的変化を引き起こしたことを、頭の隅に置いて おくとよいかもしれない。本書では、わずか一箇所にだけ、まだ何もなっていな い頃のグーグルが出てくる。グーグルが水面下で未来を構想していた頃に、私を 含め、世の中は、誰に注目し、どんなことに悩み、何に一喜一憂していたのか。 現在から近過去を振り返る読み方をすれば、次代の担い手たちが今も世界中のど こかに必ず居て、未来について私たちとはまったく違うことを考えているはずだ、 という想像力が生まれてくるのではないかと思うのだ」という。


シリコンバレーの魅力は、そのグーグルを生むビジネス風土なる起業家主導型 経済の本質を理解し、それを強靭にして社会に根付かせていかねばならない−梅 田さんの記述は、全編確信に溢れ、強いメッセージを随所に発信していました。 これは、海の向こうのことではなく、そう、わが国のウィークポイント、そこの 問題を指摘されていることを知らなければならない。



●グーグルを生むビジネス風土


さて、そのグーグル。1973年生まれのグーグルの創業者2人は、ラリー・ペー ジとセルゲイ・ブリンは95年の夏にスタンフォード大学で出会った、という。と もに数学者を父親に持ち、専攻はコンピューター科学だが、何につけて数学的関 心が著しく強かったらしい。


で、96年からの01年の5年間は、その「好きで好きで仕方がない」研究に没頭 し、「ネット全体にわたる強大なグラフ構造を分析し尽くす」という数学的関心 から個々のウェブサイトの価値を評価するページランクというアルゴリズムを生 み、研究を支える自製のコンピューター・システムを含めた全体が、やがてグー グルの「検索エンジン」に成長していく。しかし、面白いのは、その過程で、こ の研究の果てに何が生まれるか、2人はまったく想像できていなかった、という んですね。


もうひとつエピソード。2人は、世界中のウエッブサイトが増殖し、それにつ れてPCのシステム構築の部品、ネットワークの帯域幅などのインフラ環境が大 学内で賄える範囲を超えたため、98年、大学を出て起業することになります。そ こに現れたのが、サン・マイクロシステムズの共同創業者のアンディ・ベクトル シャイムでした。2人から話を聞いたアンディは、その場で10万ドルの小切手を 切る。これも興味深い。初対面で、その場で、10万ドル!なんかベンチャー創出 の環境整備って、言っても根本的に何かがが違う、それは何?


その10万ドルを元手にラリーとセルゲイは98年9月にグーグルを創業した、と いうから、起業の扉は、魔法にかかったように、すっと開いていくですね。


さて、投資したアンディが10万ドルの見返りに得たグーグル株は、どう少なく 見積もっても数億ドルには化けただろうーと梅田さん。その2人が大学院在籍中 に開発した技術をグーグルに独占供与する見返りに得たスタンフォード大学の グーグル株は、05年冬に3億3千6百万ドルで売却された、というから凄い。梅田 さんは、スタンフォード大学とシリコンバレーの関係のスケールが株式売却益40 0億円弱という桁違いの大きさから、よりよくイメージできるのではないか、と 指摘しています。う〜む、大学発ベンチャーのEXITに今、もっとも欲しい成 功モデルは、これだよね、森下さん。そのために、何が求められているのでしょ うか?そこが大学発ベンチャー支援の要諦かもしれません。優遇だ〜っていうと ろの根拠の薄い批判などからは何にも生まれないことを肝に銘じたい。


「シリコンバレー精神」。競争社会の実力主義、アンチ・エスタブリシュメン ト的気分、オールドエコノミーの企業にどっぷり漬かってはいない。開拓者精神、 技術に根ざした楽天主義、果敢な行動主義、そして、面白がって楽しむ心の有様 をいうのだそうです。


70年代のインテル、80年代のアップル、サン・マイクロシステムズ、オラクル、 90年代のシスコ・システム、ヤフー、eベイ、そして2000年代のグーグル‥。梅 田さんは続けて、「シリコンバレー精神」を形成する諸要素は、創造的破壊によ って無から世界企業になったシリコンバレー企業群に共通するビジネス風土でも ある−と指摘しています。なるほど、梅田さんが指摘するシリコンバレー精神、 僕も素直に納得してしまいます。もう、じっとしていられない。シリコンバレー に行きたい。いっちゃおうかなあ〜。



●「That's the way to go」


さらに、こんなエピソードもありました。梅田さんが創業の「ミューズ・アソ シエイツ」が今年の春でちょうど10年目に入ったことを紹介して、「私が(創業 して10年って)そういうとシリコンバレーの人たちは、黙ってにっこり微笑み、 手を求め、手を差し出してくれる。会社の実情など聞かない。うまくいっていな ければとうにやめているはずだもんね、とそんな『おっちょこちょい』な感覚で 励ましてくれる」というのです。「小さな達成」だが、他者に受容されるのは嬉 しい、と心情を吐露していました。なんとも微笑ましい、いい雰囲気が伝わって きます。


振り返れば、と続けて不動産家や家具屋、カーペット屋の普通のおじさん、お ばさんたちが独立、起業と聞いて「That's the way to go」(それが行くべき道 である)と口を揃えてくれたことで、私は、どれほどの勇気を与えられただろう、 それがシリコンバレーの空気だ、とも述懐していました。


「That's the way to go」〜それが行くべき道である〜か。これも、なんか勇 気が湧いてくるフレーズです。この「シリコンバレー精神」って、なんなのでし ょうね〜。日本にある?ない?僕には、ある、と思う。そして、とってもよく分 かります。1千数百万円の年俸を捨てて退職し、先行き不透明な会社を創って船 でしてみると、そこのところが痛切に感じます。この晩秋の時期は、とくに‥。それは、単に人恋しいだけかも‥。



 ●山本尚利教授の「ビロンガー(belonger) 」論


早稲田大学ビジネススクール教授で、元SRI(Stanford Research Institut e)グループ技術経営コンサルタントの山本尚利さんが、最近の産学連携ジャーナ ルの座談会で、米国と日本の社内ベンチャー創出の違いに触れて、「ビロンガー (belonger) 」という造語を紹介し、「要は組織に属する人のことですが、(略) リスクを取らない。自分自身に自信を持てる人というのが圧倒的に少ない」と指 摘して、就業者全体から見て、米国人の40%がビロンガーで、日本人は、ひと ころに比べてやや減っていますが、それでも80%はいる、比率は「米国の倍」 と興味深いデータを示していました。


そこで、梅田さんの体験を裏付けるようなエピソードを例に、ビロンガーの属 性をこう説明していました。


〜例えば、日本のケースでは、ベンチャーの名刺を持って売り込みに歩くと、 「どこの馬の骨なのか」という風で、誰も相手にしてくれない。が、シリコンバ レーでは、それがまったく逆なことが起る。「社長」と名刺に刷り込んであって も社名は聞いたことがないから、だからみんな自分の名前だけの名刺で動く、個 人として自立しているからです。シリコンバレーの他、香港や中国でもそうです。 しかし、日本人は、名前より社名、そして肩書きで判断する傾向がある〜という ような意味の発言をされていました。なるほど、ねぇ。


これはよく指摘されていることですけれど、少しはよくなっているのでしょう か?どうして、こうも違いがあるのか?


山本さんは、「メンタリティーが根本的に違う」と指摘していました。その、 That's the way to go!という流儀が、そもそも身についていないのかもしれま せん。鎖国、島国根性、組織主義、出る杭の譬‥。



●「Google新戦略の展望とチャレンジ」


知人でグローバル情報社会研究所(株)の社長で、精力的にITビジネスの舞 台を演出する藤枝純教さんのお誘いで、先日、港区麻布台の東京アメリカンクラ ブで開催のGISフォーラム創立10周年記念フォーラムに足を運んできました。 懐かしい顔もありました。


僕の関心は、「Google新戦略の展望とチャレンジ」と題したGoogle副社長でGo ogle Japan代表取締役社長の村上憲郎氏の講演でした。経営方針は、ひとつ「世 界中の情報を整理する」、その延長線上に、インターネット上に載っていない情 報のインデックス化、書籍あるいはイントラネットやファイヤーウオール内の社 内文書も検索し整理する、そして動画、まあこれは先ごろ、動画投稿サイト大手 の米ユーチューブを買収し、動画配信の米国市場の6割を抑えたばかりですが、 事業の方向性にブレがありませんね。そして、友だちに喜んでもらえるサービス は何か、そこのところを集中してサービスを創っていく、と村上さんは力説して いました。次代の若い人に聞かせたかった内容でしたね。


戻って再び、梅田さんの本。Google、頑固に検索エンジンの性能を上げる、と いうところに熱中しながら、創業当時は、ビジネスモデルの影も形もなかった− という点に着目する梅田さんは、「このことから、私たちは何を感じ取ればいい のだろうか」と問いかけながら、「Web2.0」時代に狂奔する人々が多い今、 「Web3.0」時代を切り拓くであろう「いずれ次ぎのグーグルになる若者たち」 が必ずどこかに居て、他の人たちとはまったく違うことを考えているに違いない、 という想像力に結びつけるべきなのだ、という。


そして、そう信じて、次世代に期待する心を持ち、彼ら彼女らの挑戦や冒険を、 それが私たちには理解不可能なものだとしても『おっちょこちょい』のオプティ ミズム(楽天主義)で暖かく見守り励ますべきなのだ。それが、シリコンバレー の「大人の流儀」であり、「シリコンバレー精神」の真髄なのである−と強調し ていました。



  ●黒川清氏の「大学の大相撲化」が大ブレーク!日経1面、ネットの鬼才・伊藤 譲一氏のblogにも登場〜。


梅田さんの、この感動的ですらある「文庫のための長いあとがき」は、イノ ベーション25戦略会議座長で、内閣特別顧問の黒川清さんから紹介された一冊 でした。「シリコンバレー精神」の真髄に、イノベーション25戦略会議にいく つかの秘策が潜んでいるように感じるのですが、さて皆さんは、どう感じられた でしょうか。


その黒川さん、本日の新聞報道によれば、政府に新設の「新健康フロンティア 戦略賢人会議」の座長に就任した−とありました。二足の草鞋、いやいや、この 人の草鞋は、もう十足以上でしょうか。重要な仕事は、忙しい人に頼め−は人の 登用のセオリー通りでしょうか。まあ、健康じゃなきゃ、イノベーション25の 戦略なんかできませんから、両方互いにリンクし、それでシナジーを生むことに なるのでしょう。


本日、さらに黒川先生のDND「学術の風」は、コラム「大学の大相撲化」で す。そのサワリです。〜私が今年始めから何回も、何箇所で言っている「大学の 大相撲化」ですが、とうとう日経新聞の11月4日、土曜の朝刊の第一面に記事の タイトルにも取り上げられました。うれしいですね。


「大相撲化オオズモウナイゼーション」というのです。これは私が英語の講演で は使うのです。伊藤譲一くんという友人がいます。彼はITベンチャー起業、bl og等の分野での人で、日本よりはむしろ世界で有名で、先日のNewsweek日本語版 10月18日の「世界の尊敬する日本人100人」にもで出ている人です〜って前置き して、伊藤氏のブログを紹介しています。こちらもどうぞ、見てください。凄い わ。



●DNDイノベーション25緊急提言、大好評。


さて、イノベーション25戦略会議発足に合わせて、DNDで集中連載「イノ ベーション25戦略会議緊急提言」のコーナーを設置したことは前回、紹介しま した。さっそく、それもベンチャラスにかつスピィディーに対応してくれました。 NEDO企画調整部長の橋本正洋さん、東京農工大学大学院教授、古川勇二さん、 東北大学教授で総合科学技術会議議員の原山優子さん、そしてアンジェスMG創 業者で大阪大学大学院教授の森下竜一さんらが、それぞれのお立場から、25年を 目指した長期戦略の要諦について提言があり、本日までにその第1弾をアップし ました。いま内外に大きな反響を呼んで、イノベーション25戦略会議を検索すれ ば、このDND緊急提言が上位にランキングされていることは、嬉しいことです。


さて、さて、10日から全国大学発ベンチャー北海道フォーラム(11日まで)の開 幕ですね。初日は、京都帝国大学理学部在学中の昭和20年11月に堀場無線研究所 を創業した、堀場製作所の堀場雅夫会長が講演されます。「大学発ベンチャーに 望むこと!」がテーマで、いわば元祖というか、本家というか、大学発ベンチ ャーの家元にふさわしい演題です。楽しみです。


主催者を代表して地元からは、ウェルカムスピーチに北海道大学総長の中村睦 男氏が登壇し、その後、交流会を開く予定です。みなさん、会場に足を運んでく ださいね。自慢の800万画素のデジカメを持参します。


追伸:オホーツク海を臨む北海道佐呂間町を襲った7日午後の竜巻で、死亡9人、 重体・重軽傷26人、家屋全開33棟という竜巻の被害としては最悪の事態となりま した。自然の猛威の恐ろしさに言葉が見つかりません。犠牲者の方々のご冥福を お祈りいたします。


記憶を記録に!DNDメディア塾
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